SCS(サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度)の評価準備で最も時間がかかるのは、バラバラに存在する「設定画面の画像」や「日々の作業記録」を、評価の要求事項に合わせて整理する作業です。まずは、評価基準の項目ごとに「どの資料が証拠になるか」を整理する管理表を作成することから始めてください。
単に資料を集めるだけでなく、その資料が「いつ、誰によって、どのように」行われたものかを一目でわかる状態にすることが、評価をスムーズに進めるための第一歩です。
評価要求と証拠資料をどう結びつけるか
評価基準の項目を分解して整理する
SCSの評価を受ける際、いきなり資料を集め始めるのは非効率です。まずは評価基準となる要求事項を、自社が対応すべき具体的なアクションに分解する必要があります。例えば、「外部からの不要な通信を遮断する」という基準がある場合、それを「ファイアウォールの設定」と「通信ログの確認」という具体的な作業に落とし込みます。
このように、抽象的な基準を「目に見える作業」に変換することが重要です。
次に、分解した各作業に対して、どのような資料が「証拠」として認められるかを検討します。設定内容を示す画面のキャプチャなのか、あるいは定期的な点検を行ったことを示すチェックリストなのかを明確にします。この段階で、どの項目にどの資料が必要かを整理したリストを作っておくと、後の収集作業が格段に楽になります。
担当者へは「この基準を満たしていることを証明するために、何を見せられるか?」と問いかけてみてください。
設定画面のキャプチャに付加すべき情報
セキュリティ機器やソフトウェアの設定画面を撮影する際、単に画面を切り取っただけでは証拠として不十分な場合があります。評価において重要なのは、その設定が「現在の正しい状態であること」と「誰がその設定を確認したか」です。そのため、キャプチャ画像には必ず、システム日付や時刻、および設定変更を行った責任者の名前がわかる情報を併せて記録するようにしてください。
例えば、ウイルス対策ソフトの設定画面を保存する場合、単に「保護が有効」と写っているだけでなく、定義ファイルが最新であることを示す日付や、管理者がその設定をいつ確認したかの記録がセットになっている必要があります。
設定画面は「静的な証拠」ですが、そこに「いつの時点のものか」という時間軸の情報を加えることで、初めて評価に耐えうる「動的な証拠」へと変わります。担当者には「日付と責任者が写っているか」を必ず確認させてください。
運用記録を証拠として成立させるコツ
「ルールを決めていること」と「ルール通りに運用していること」は別物です。SCSの評価では、後者の「運用記録」が厳しく見られます。例えば、バックアップを取るというルールがある場合、ルールが書かれた規定集だけでなく、実際にバックアップが成功したことを示すログや、担当者が確認した際のチェックシートが必要です。
これらが揃って初めて、運用が実態を伴っていると判断されます。
運用記録を整理する際は、記録の「連続性」を意識してください。一度きりの記録ではなく、月次や週次といった決まったサイクルで継続して記録されていることが、運用の定着を示す強い証拠になります。もし記録が途切れている箇所がある場合は、その理由や、どのようにリカバリーしたかを説明できる準備をしておく必要があります。
担当者には「ルールに基づいた記録が、途切れずに残っているか」を点検するよう指示しましょう。
証拠資料を管理する表の作り方
管理表に盛り込むべき必須の項目
バラバラの資料を一つにまとめるための管理表には、後から見返して「これさえ見れば評価者に説明できる」という項目を網羅しておく必要があります。具体的には、「評価基準の番号」「要求事項の内容」「対応する具体的な対策」「証拠資料の名称」「資料の保存場所」「管理責任者」「最終確認日」「次回の更新期限」といった項目です。これらを一つのExcelシートなどに集約します。
特に「資料の保存場所」と「更新期限」は非常に重要です。評価の場では、求められた瞬間に資料を提示できなければなりません。ファイルサーバーのパスやクラウドストレージのリンクを管理表に記載しておくことで、探し回る時間を削減できます。
また、セキュリティ対策は一度行えば終わりではなく、定期的な見直しが必要です。更新期限を管理表に入れておくことで、対策の形骸化を防ぐことにもつながります。
責任者と作業者を明確に分ける
管理表を作成する際は、その対策を「決める人(責任者)」と「実行する人(作業者)」を分けて記載するようにしてください。中小企業の場合、一人の担当者が両方を兼ねていることも多いですが、評価の観点では「誰が責任を持ってその運用を監督しているか」が問われます。
管理表には、作業を行った担当者名だけでなく、その作業が正しく行われたことを承認した責任者の名前を記載しておきましょう。
例えば、サーバーのログ確認作業を行う場合、作業者は情報システム担当者、承認者はIT部門の責任者といった具合です。このように役割を明確にすることで、万が一運用に不備が見つかった際にも、組織としてどのように改善を図るべきかの判断が早くなります。担当者へは「この作業の最終的な責任者は誰か、そして誰が実務を行っているのか」を整理して報告させるようにしてください。
資料の更新サイクルを組み込む
セキュリティ対策の証拠は、時間が経つと価値がなくなります。半年前の設定画面のキャプチャでは、現在の安全性を証明できません。そのため、管理表には必ず「次回の確認予定日」や「更新サイクル」の列を設けてください。例えば、パスワードポリシーの確認は半年に一度、ウイルス対策ソフトの定義更新確認は毎日、といった具合に、対策の性質に合わせてサイクルを設定します。
更新サイクルを管理表に組み込むことで、評価の準備を「評価直前」に行うのではなく、日々の業務の一部として定着させることができます。これにより、評価時期になって慌てて資料を集めるという事態を避けられます。管理表を「一度作って終わりのリスト」ではなく、「常に最新の状態に更新し続ける運用ツール」として位置づけることが、SCS対応を成功させる鍵となります。
専門家による確認をスムーズに進める手順
事前に自己診断で不足分を見つける
SCSの★3評価では、セキュリティ専門家による確認・助言を受けます。専門家に資料を提示する前に、自社で「自己診断」を行い、証拠資料の不足を見つけておくことが重要です。IPAが提供している「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」などの指標を参考に、現在の対策が基準を満たしているか、それに対する証拠が揃っているかをセルフチェックしてください。
この際、単に「できている」と判断するのではなく、「その判断を裏付ける資料が手元にあるか」という視点でチェックを行います。もし資料が足りない場合は、評価を受ける前に、不足しているキャプチャの取得やログの整理を完了させておく必要があります。専門家から「資料が足りません」と言われる回数を減らすことが、結果として評価取得までの期間を短縮することにつながります。
専門家への提示方法を工夫する
専門家に資料を提示する際は、管理表を「目次」として活用してください。専門家は、自社の業務内容をすべて把握しているわけではありません。管理表を見せながら、「この評価項目に対しては、この管理表の○行目に記載されている資料(ファイル名:XXX)を確認してください」と案内することで、専門家は迷うことなく審査を進めることができます。
資料を渡す際は、単にファイルを送るだけでなく、その資料が「何を証明するためのものか」という説明を添えるのが理想的です。例えば、「これは〇月〇日に行ったバックアップテストの結果記録です」といった一言があるだけで、専門家の理解は格段に深まります。担当者には「資料を渡すときは、必ず『何のための資料か』をセットで伝える」よう指導してください。
助言を受けた後の修正と記録
専門家から「この証拠では不十分である」といった助言を受けた場合、それを単なる指摘として終わらせず、必ず管理表に記録してください。どのような指摘を受け、どのように対策を修正したか、そして修正後の新しい証拠資料はどれかを管理表に追記します。この「改善のプロセス」自体が、自社のセキュリティ管理体制が機能していることを示す貴重な証拠になります。
指摘を受けて修正した事実は、組織が継続的に改善に取り組んでいる姿勢として評価されます。修正後の資料を管理表に反映させ、最新の状態に保つことで、次回の更新時や、より上位の★4評価を目指す際の準備に役立てることができます。担当者には「指摘を受けたことは失敗ではなく、管理体制を強化するためのチャンスである」と伝え、記録を徹底させてください。
組織として判断し相談を進めるために
自社の現在の準備状況を整理する
SCSの評価準備を進めるにあたっては、まず「今、何ができていて、何ができていないのか」を経営層が把握することが重要です。現場の担当者に任せきりにせず、管理表の作成状況や、証拠資料の収集率などを数値や進捗状況として報告させる仕組みを作ってください。例えば、「評価項目のうち、証拠資料が揃っているのは6割である」といった具体的な数字で状況を把握します。
準備状況が整理できていれば、次に「どこにリソース(人員や時間)を投入すべきか」という判断がしやすくなります。資料の収集が遅れている原因が、単なる作業時間の不足なのか、それともそもそも対策自体が実施できていないのかを見極める必要があります。この整理ができていない状態で外部の専門家に相談しても、的確なアドバイスを得ることは難しくなります。
外部の専門家へ相談するタイミング
自社での準備がどの程度進んでいるかが見えてきた段階で、外部の専門家への相談を検討してください。SCSの★3では、セキュリティ専門家による確認・助言を受けることが求められます。自社だけで「これで大丈夫だ」と思い込むのではなく、客観的な視点を入れることで、見落としていたリスクや、より効率的な管理方法が見つかることがあります。
相談する際は、作成した「管理表」と「現在揃っている資料のリスト」を提示できるように準備しておきましょう。これにより、相談の時間が非常に具体的で実りあるものになります。専門家に「今の私たちの準備状況で、★3の要件を満たしていると言えるか?」と直接問いかけることが、最も効果的な相談の始め方です。
評価の段階に応じたリソース配分
SCSには★3、★4、★5といった段階がありますが、自社がどの水準を目指すべきかは、取引先との関係や自社の役割によって異なります。★3は一般的な脅威への対処、★4はサプライチェーン全体への寄与、といった違いがあります。目指す段階によって、準備すべき証拠資料の量や、求められる技術検証のレベルは大きく変わります。
最初から高い目標を掲げて無理な準備をするのではなく、まずは★3の取得を確実に目指し、その過程で整えた管理表や運用記録をベースに、段階的にステップアップしていく計画を立てるのが現実的です。経営層としては、目指すべき水準と、それに伴うコストや工数のバランスを考慮し、組織としての意思決定を行う必要があります。
まずは現在の自社の状況を整理し、どの段階からスタートすべきかを検討することから始めてください。
参照情報・確認日
以下の公式情報を背景に、本文の手順・判断例はAX labsの提案として整理しています。料金や効果の保証は扱っていません。
- IPA:SCS評価制度の詳細情報 ↗
確認日:2026-10-16 - IPA:中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン第4.0版 ↗
確認日:2026-10-16