パスワードを入力する代わりに、端末のロック解除などを使ってログインする「パスキー」は、セキュリティを高める手段として注目されています。しかし、会社で導入する場合、単に「便利そうだから」という理由だけで進めるのは避けてください。最も重要なのは、社員がスマートフォンを紛失したときや、新しい端末に買い替えたときに、会社が用意した業務システムへ会社の確認手順を経て再ログインできる仕組みがあるかを確認することです。まずは、特定の数名に限定して、実際に端末の入れ替えや紛失を想定したテストを行うことから始めてください。
パスキー導入時に直面する端末管理の壁とは
会社が支給する端末と個人の端末のどちらを使うか
パスキーを利用する際、まず決めるべきは「どの端末に認証情報を保存するか」です。会社が業務用に支給しているスマートフォンやパソコンに保存する場合、管理の主導権は会社にあります。一方で、社員が私物として持っているスマートフォン(BYODといいます)を利用する場合、利便性は高いものの、会社がその端末の中身を直接制御することは難しくなります。例えば、社員が退職した際に、その端末に残っている認証情報をどう扱うかといったルール作りが必要になります。導入を検討する際は、IT担当者に「会社支給の端末だけで運用を完結させるのか、それとも個人の端末も許可するのか」を具体的に問いかけてみてください。
複数の端末で認証情報を同期させる仕組みの理解
パスキーには、クラウドを通じて複数の端末間で認証情報を共有(同期)できる仕組みがあります。同期型では、対応する保存サービスと同じアカウントを使う別の端末でも利用できる場合があります。端末に固定する方式もあるため、保存先と管理方法を分けて確認します。これは非常に便利ですが、企業においては「どこまで同期を許容するか」が論点となります。同期が有効であれば、新しい端末を買ったときに設定が引き継がれるため、機種変更の手間が減ります。しかし、同期の設定が個人のプライベートな領域と混ざってしまう懸念もあります。担当者には「認証情報の同期機能を使う場合、会社のセキュリティポリシーに抵触しないか」を確認することが大切です。
共用端末や複数の社員で使うアカウントへの影響
店舗の受付など、一つのパソコンを複数の社員で使う場合は、端末を共有することと、業務アカウントを共有することを分けて考えます。まず個人別のアカウントを使えるか確認し、誰の操作か記録できる状態を優先しましょう。認証のために特定の社員の私物スマートフォンだけを使う運用だと、その人の不在や紛失時に仕事が止まるおそれがあります。共用端末に認証情報を保存する場合も、別の社員が前の利用者のまま操作できないかを確認します。パスキーには同期型と端末に固定する方式があり、利用できる範囲はサービスや保存先によって異なります。予備の認証手段、交代時のログアウト、登録を解除する役割を会社のルールとして決め、シフト交代の場面で試してください。
機種変更や紛失が発生したときの運用手順を検証する
スマートフォンの買い替え時にスムーズに移行できるか
社員がスマートフォンの機種変更を行う際、新しい端末でスムーズにパスキーが使えるかどうかは、業務継続の観点から非常に重要です。前述した「同期」を利用していれば、対応する端末と保存サービスのアカウントを設定して引き継げる場合があります。機種や会社の管理制限によって手順が変わるため、実機で確認します。しかし、同期を利用しない方式を採用している場合、新しい端末ごとに一つずつ認証情報を登録し直す作業が発生します。このとき、古い端末が手元にない状態で新しい端末の設定を進められるか、あるいは管理者が新しい端末の登録を許可できるかを確認してください。担当者には「機種変更の際、社員が自力で設定を完了できるのか、それとも管理者の承認が必要なのか」を尋ねてみましょう。
端末を紛失した直後の緊急対応フロー
もし社員が業務用のスマートフォンを紛失してしまった場合、その端末に保存されているパスキーが悪用されないよう、迅速な対策が求められます。まずは、その端末から遠隔でデータを消去できる仕組みがあるか、あるいはパスキーの権限を即座に無効化できるかを確認してください。また、紛失した社員が、別の端末から業務システムへログインするための手段(サービスが提供するリカバリコードや、管理者が発行する一時的な認証手段など)が、自社の運用ルールとして用意されているかも重要です。単に「パスキーは安全です」と信じるのではなく、「紛失したときに、どのように本人確認を行い、どのようにアクセス権を無効化するか」という復旧手順を具体的にシミュレーションしておくことが、企業の防御力を高めます。
管理者がアカウントの復旧をサポートできる範囲
パスキーの利用者がログインできなくなった際、最終的に助け舟を出すのは会社の管理者です。管理者が、利用者の代わりにパスキーを再発行したり、一時的なパスワードを発行してログインを支援したりできる仕組みがあるかを確認してください。このとき、管理者が「誰にでもパスワードを教えてしまう」ような運用になってしまうと、パスキーを導入した意味がなくなってしまいます。例えば、本人確認のために「社員証の提示」や「上長による承認」といったステップを挟むルールが必要です。担当者には「ログイン不能になった社員へのサポート手順は、セキュリティを保ったまま実行できるか」を確認してください。
導入の判断基準となる比較ポイント
サービスごとに異なる対応状況の確認方法
すべての業務システムがパスキーに対応しているわけではありません。現在使っている会計ソフトや勤怠管理システム、メールサービスなどが、どのような方式のパスキーに対応しているかを調べる必要があります。例えば、ブラウザ上で完結するタイプなのか、特定のアプリをインストールする必要があるのかによって、社員への指示内容が変わります。導入を検討する際は、まず「現在利用している主要なサービスのうち、どれがパスキーを使えるのか」のリストを作成することから始めましょう。対応していないサービスに対して、無理にパスキーを適用しようとすると、かえって混乱を招く原因となります。
運用コストと手間を左右する管理の手間
パスキーの導入は、一見するとパスワード管理の手間を減らすように見えますが、実は「端末の管理」という新しい手間を生みます。社員が端末を紛失したり、設定を間違えたりした際のサポートコストを考慮しなければなりません。例えば、少人数の会社であれば管理者が直接対応できますが、社員数が増えてくると、問い合わせへの対応だけで時間が奪われてしまいます。導入の判断基準として、「パスワード管理の手間が減るメリット」と「端末トラブルへの対応コストが増えるデメリット」を天秤にかける必要があります。担当者には「トラブルが起きた際、IT部門の負担はどの程度増える見込みか」を聞いておきましょう。
セキュリティレベルと利便性のバランス
認証を選ぶときは、ログイン時の操作の数だけでなく、認証情報の保存先、本人確認、復旧までを一緒に見ます。パスキーは、端末にある認証情報を使い、サービスが本人確認を求める場合は指紋・顔認証やPINなどを組み合わせます。そのため「パスキーにさらに別の認証を加えなければ多要素認証にならない」と一律には言えません。会社で必要な条件を満たすかは、利用サービスの設定と採用する方式で確認してください。重要なシステムでは、誰が登録を許可できるか、紛失時に既存のログイン状態も止められるかを管理担当へ聞きます。操作が簡単でも、退職後の登録や復旧方法を会社が管理できないなら、運用上の課題が残ります。
失敗しないためのテストと相談の進め方
少人数での試験運用で確認すべき項目
いきなり全社員にパスキーを導入するのは避けてください。まずは、ITに詳しい数名や、特定の部署だけで試験運用を行うことを強くおすすめします。この試験期間中に確認すべきは、「日常的なログイン」だけではありません。「スマホの充電が切れたとき」「Wi-Fiが不安定なとき」「新しいアプリをインストールしたとき」など、少しイレギュラーな場面を想定してテストを行ってください。もし試験運用中に「ログインできなくて仕事が止まった」という事例が出れば、それは全社展開する前に解決しておくべき課題です。テストの結果を記録し、どのような場面で困ったかを整理しておきましょう。
外部の専門家へ相談すべきタイミング
自社内だけで判断が難しいと感じたら、早めに情報セキュリティの専門家や、システムの保守ベンダーに相談してください。特に、「紛失時の復旧手順が、会社のセキュリティポリシーとして適切か」や「導入によって、既存のネットワーク環境に影響が出ないか」といった点は、専門的な知見が必要です。相談する際は、「今、どのような端末を使い、どのようなトラブルを想定しているのか」という具体的な状況を伝えると、より的確なアドバイスが得られます。自社だけで「これで大丈夫だ」と断定せず、専門家の目を通じて、現在の対策が十分であるかを確認する姿勢が重要です。
自社の状況を整理して次のステップへ
パスキーの導入は、単なるツールの入れ替えではなく、会社の「認証のルール」を作り直す作業です。まずは、自社の現在の状況を以下の観点で整理してみてください。
- 会社が管理している端末は、パスキーの同期機能に対応しているか。
- 社員が端末を紛失した際、誰が、どのようにしてアクセス権を止めるか決まっているか。
- 機種変更の際、社員が自力でログインを継続できる仕組みがあるか。
これらの問いに対して、明確な答えが出ない場合は、まだ全社導入のタイミングではありません。まずは、現在の業務フローを書き出し、どこにリスクがあるかを特定することから始めてください。もし、整理した内容をもとに具体的な対策を検討したい場合は、専門家へ相談する準備を整えましょう。
参照情報・確認日
以下の公式情報を背景に、本文の手順・判断例はAX labsの提案として整理しています。料金や効果の保証は扱っていません。
- IPA:不正ログイン対策特集 ↗
確認日:2026-10-15 - FIDO Alliance:Passkeys ↗
確認日:2026-10-15 - FIDO Alliance:Passkeys ↗
確認日:2026-10-15