取引先から「SCS評価制度への対応をお願いしたい」という連絡を受けた際、経営者や担当者がまず行うべきことは、具体的な対策を検討することではありません。まずは、相手が何を、いつまでに、どのレベルで求めているのかを「文面」で正確に把握することです。
SCS評価制度は、サプライチェーン(供給網)全体のセキュリティを強化するための仕組みです。求められるレベルによって、自社が用意すべき資料や、外部の専門家に依頼する費用、さらには社内の体制づくりにかかる工数が大きく変わります。まずは落ち着いて、相手への確認事項を整理しましょう。
要求の性質と具体的な評価レベルをどう見極めるか
要求は正式なものか営業の勧誘か
取引先から連絡があった際、それが「今後の取引条件として必須となる正式な要求」なのか、あるいは「制度の周知を目的とした情報提供や、コンサルティングの勧誘」なのかを区別する必要があります。もし後者であれば、現時点で急いで対策を講じる必要はありません。
例えば、メールや書面で「次回の契約更新時に★3以上の取得を条件とする」といった具体的な記述があるかを確認してください。担当者へは「この要求は、契約上の義務として発生するものですか? それとも、今後の検討材料としての情報提供ですか?」と質問してもらうのが良いでしょう。
これにより、予算確保の必要性や、対策の優先順位を判断できます。※実際の契約条件や予算は、取引先との協議や社内の予算担当者と確認してください。
求められている星の数(★3・★4・★5)はいくつか
SCS評価制度には、★3から★5までの段階があります。この「星の数」によって、自社が取り組むべき作業の内容は大きく変わります。例えば、★3であれば、セキュリティ専門家による確認を経た「自己評価」が中心となりますが、★4になると、評価機関による「第三者評価」や「技術検証」が必要になり、より客観的な証明が求められます。
担当者には「具体的にどの段階(★3、★4、あるいは★5)の取得を求められていますか?」と確認させてください。★5は現時点では検討段階の高度な水準であり、★3や★4とは求められる対策の質が異なります。相手がどの水準を想定しているかを知ることで、自社の現在のセキュリティ体制との距離を測ることができます。
評価の対象となる業務範囲はどこまでか
評価の対象が「会社全体の全業務」なのか、それとも「特定の製品や特定の取引に関する業務」に限定されているのかを確認してください。サプライチェーンの強靭化を目的とする制度であるため、取引先は「自社に関わる特定の工程」の安全性を確認したいと考えているケースが多いからです。
例えば、「製造ラインの管理システムに関する部分だけ」といった限定的な範囲であれば、全社的なシステム改修は不要かもしれません。担当者には「評価の対象は、全社のセキュリティ体制ですか? それとも、弊社が提供している特定のサービスや製品に関連する範囲ですか?」と聞き出してもらいましょう。範囲を絞り込むことで、対策コストを最小限に抑えられる可能性があります。
評価の実施に必要な準備と外部リソースの検討
自己評価と第三者評価の違いを理解する
★3の評価では、セキュリティ専門家による確認・助言を経た「自己評価」が求められます。一方で、★4では、指定された評価機関による「第三者評価」や「技術検証」が必要になります。この違いは、準備する書類の重みや、外部へ支払う費用に直結します。
★3であれば、社内の情報システム担当者や、必要に応じて外部の専門家から助言をもらいながら進めることが可能です。しかし、★4になると、評価機関による実地審査や技術検証が行われるため、より厳格な証拠(エビデンス)の準備が求められます。自社がどちらのプロセスを想定して動くべきか、相手の要求レベルに基づき判断してください。
セキュリティ専門家に依頼する範囲を決める
★3の評価プロセスでは、セキュリティ専門家による確認と署名が必要です。この専門家は、特定の要件(情報処理安全確保支援士などの資格保持や研修受講など)を満たし、事務局に登録されている必要があります。自社に専門知識を持つ社員がいる場合はその活用を検討し、いない場合は外部の専門家へ助言を依頼する準備を進めます。
「専門家には、評価シートの書き方の助言までお願いするのか、それとも評価内容そのものの妥当性を確認してもらうのか」といった役割分担を事前に想定しておきましょう。専門家への依頼範囲が不明確だと、後から追加の費用が発生したり、評価が受理されなかったりするリスクがあります。担当者には、外部支援が必要な場合の予算感についても検討させておくとスムーズです。
評価機関や技術検証事業者の役割を確認する
★4の評価を受ける場合、評価機関や技術検証事業者が関わってきます。評価機関は「文書の確認や実地審査」を行い、技術検証事業者は「システムの技術的な検証」を行います。これらは、制度によって指定された機関が担うことになります。
取引先から「評価機関の指定」があるのか、それとも自社で選定して良いのかも確認ポイントです。もし自社で選定する場合、評価機関と技術検証事業者が同一のケースと、別組織であるケースがあります。どちらの体制で進めるべきか、あるいは取引先が推奨する組み合わせがあるのかを、担当者を通じて確認しておきましょう。
対策を進める上でのスケジュールと証拠の管理
提出期限から逆算したスケジュールを立てる
取引先が提示する期限は、単に「評価結果を出す日」を指しているのか、「評価の申請を完了させる日」を指しているのかを確認してください。制度の申請から台帳への登録・公開までには、事務局の確認プロセスが含まれるため、余裕を持った計画が必要です。
例えば、取引先が「12月末までに評価を完了させてほしい」と言った場合、それは「12月末までに評価結果の報告書を手元に持っている状態」を指している可能性があります。
担当者には「期限は、評価の申請完了ですか? それとも、評価結果の受領ですか?」と確認させ、そこから逆算して、社内の体制整備や外部専門家の確保にかかる期間を組み込んだスケジュールを作成させてください。
評価の根拠となる証拠(エビデンス)を整理する
SCS評価では、単に「対策をしています」と回答するだけでは不十分です。その対策が実際に行われていることを示す「証拠(エビデンス)」、例えば運用ルールが記載された規定集や、システムのログ、点検記録などが求められます。これらが揃っていないと、評価は通りません。
「どのような書類や記録が、評価の根拠として必要になるか」を、早めに確認しておくことが重要です。担当者には、現在の社内ルールや作業記録が、評価の要求事項を満たしているか、不足しているものは何かをリストアップするよう指示してください。不足している証拠を作るためには、運用を定着させるための「時間」が必要になるからです。
失敗を防ぐための確認事項とリスク管理
対策を進める中で、想定していた対策が評価基準を満たしていなかった場合、追加のコストや時間のロスが発生します。これを防ぐためには、評価のプロセスにおいて「途中の段階で専門家や評価機関に相談できる機会があるか」を確認しておくことが有効です。
例えば、★3の自己評価を行う際、専門家に助言をもらいながら修正していくプロセスは組み込まれています。しかし、★4の第三者評価では、審査が始まってから不備が見つかると、やり直しが困難になる場合があります。担当者には「不備が見つかった場合の修正プロセスはどうなっているか」「どの段階で事前確認が可能か」を、制度の仕組みに基づいて確認させておきましょう。
自社の状況を整理し、次のアクションを決める
現在のセキュリティ体制と要求のギャップを知る
取引先からの要求を受けた後は、まず自社の現状と、求められている水準(★3〜★5)との間にある「差(ギャップ)」を明らかにすることが重要です。現在の社内のルールやシステムの管理状況が、評価基準に対してどの程度足りていないのかを整理します。
この整理を行う際は、単に「足りない」と判断するだけでなく、「どの業務範囲において、どの程度の対策が不足しているか」を具体的に書き出してください。これにより、対策に投じるべきリソース(人員・予算・時間)の規模を、経営判断として検討できるようになります。担当者には、現状の管理状況を棚卸しする作業を依頼しましょう。
外部への委託範囲と社内リソースの配分を検討する
ギャップが明確になったら、次に「自社でできること」と「外部に任せるべきこと」を切り分けます。例えば、社内の規定整備や日々の運用記録の作成は社内で行い、専門的な技術検証や、評価の妥当性を確認する作業は外部の専門家や評価機関に依頼するといった形です。
すべてを自社で完結させようとすると、専門知識の不足から評価が通らなかったり、担当者の業務が過度に圧迫されたりするリスクがあります。逆に、すべてを外部に丸投げすると、コストが膨大になります。担当者には、社内リソースの空き状況と、外部委託した場合の概算費用を比較検討するよう指示してください。
相談先を選定し、具体的な計画へ移る
自社の状況と対策の方向性が見えてきたら、最終的には専門家への相談や、具体的な対策プロジェクトの立ち上げへと進みます。この際、単なる「セキュリティ対策の相談」ではなく、「SCS評価制度の★〇の取得を目指している」という具体的な目的を持って相談することが、的確なアドバイスを得るコツです。
もし、自社の体制が評価基準に適合しているか判断がつかない場合や、具体的な準備手順が不明な場合は、セキュリティの専門家や、制度に詳しいコンサルタントへ相談することをお勧めします。まずは、これまでの検討内容(要求のレベル、範囲、期限、現在の課題)を整理した資料を準備し、相談の場を設けることから始めてください。
参照情報・確認日
以下の公式情報を背景に、本文の手順・判断例はAX labsの提案として整理しています。料金や効果の保証は扱っていません。
- IPA:SCS評価制度の詳細情報 ↗
確認日:2026-10-16