他社で大規模な情報漏えいが発生した際、そのニュースを見て不安になる利用者を狙った「偽の連絡」が届くことがあります。例えば、タイムズカーの不正アクセス事案(2026年9月28日発表の第2報時点)でも、企業が「当社を装ったメールに注意してください」と呼びかける事例が報告されています。

経営者や管理部門がまずやるべきことは、社員に対して「怪しいメールが届いた場合、メール内のリンクはクリックせず、あらかじめ定めた社内の相談窓口へ連絡する」という具体的なルールを周知することです。単に「気をつけよう」と伝えるだけでは、焦った社員が偽メールの指示に従ってしまう恐れがあります。

なぜ他社の漏えい後に偽メールが増えるのか

確認する3つの視点:事件のニュースを悪用する手口を知る、偽メールを見分けるための視点を持つ、会社として警戒すべき情報の種類
図1:なぜ他社の漏えい後に偽メールが増えるのか

事件のニュースを悪用する手口を知る

他社で情報漏えいが発生したというニュースが出ると、攻撃者はその「不安」を利用します。例えば、漏えいしたとされるサービス名を名乗り、「あなたの情報が漏れました。こちらから確認してください」といった内容のメールを送りつける手法です。これはフィッシングと呼ばれる、偽のサイトへ誘導してパスワードなどを盗み出す行為です。

社員は「自分の情報が大丈夫だろうか」と焦ります。攻撃者はその心理を突き、公式を装った巧妙な文面で、偽のログイン画面や添付ファイルへと誘導します。ニュースの内容と整合性が取れているほど、社員は本物だと信じ込みやすいため、注意が必要です。

偽メールを見分けるための視点を持つ

偽メールには、いくつかの共通した特徴があります。例えば、メール内のリンクをクリックさせて、パスワードやクレジットカード情報の入力を急かすものです。公式な企業が、メールや電話だけでパスワードや認証コードを直接聞き出すことは通常ありません。

また、送信元のメールアドレスが公式サイトのドメイン(@以降の文字列)と微妙に異なっている場合もあります。しかし、これらを見分けるのは専門家でも難しいため、「見分ける能力を高める」ことよりも、「見分けがつかない時は触らない」という判断基準を社員に持たせることが重要です。

会社として警戒すべき情報の種類

どのような情報が狙われるのかを把握しておくことも大切です。例えば、ログインに使用するIDやパスワード、本人確認書類の画像、あるいはクレジットカード情報などが挙げられます。これらが漏えいし、他のサービスと同じ情報を使い回している場合、それらのサービスへの不正ログインにも悪用される恐れがあります。

社員に対しては、「会社がメールで直接、機密情報や個人情報の入力を求めることはない」という原則を改めて伝えておきましょう。具体的な情報の種類を例示することで、社員が「これは怪しい」と直感的に判断できる材料を提供できます。

社員が迷わないための確認経路を設計する

確認する3つの視点:「メール内のリンク」を禁止するルール作り、社内の相談窓口を明確に定める、正規の連絡手段との違いを整理する
図2:社員が迷わないための確認経路を設計する

「メール内のリンク」を禁止するルール作り

注意喚起を行う際、最も重要なのは「メールに記載された指示に従わない」という具体的な行動指針です。偽メールには必ずと言っていいほど、詳細を確認するためのリンクや、ファイルをダウンロードさせる添付ファイルが含まれています。

「怪しいと思ったら、メール内のURLはクリックしない」というルールを徹底させます。もし確認が必要な場合は、メールのリンクからではなく、あらかじめブックマークしている公式サイトや、公式アプリから直接アクセスするように指示してください。この「入り口を固定する」考え方が、被害を防ぐ強力な防御策となります。

社内の相談窓口を明確に定める

社員が「これは偽物かもしれない」と疑ったとき、誰に、どのように報告すべきかを決めておく必要があります。総務部やIT担当者など、迷わず連絡できる窓口をあらかじめ指定しておきましょう。

窓口が決まっていないと、社員は「自分で判断して解決しよう」としてしまい、結果的に偽メールに騙されるリスクが高まります。「迷ったらすぐに〇〇部へチャットまたは電話で連絡すること」といった、具体的かつ心理的なハードルが低い連絡手段を提示することが、早期発見につながります。

正規の連絡手段との違いを整理する

会社が社員に対して行う「正しい連絡」がどのようなものか、あらかじめ定義しておきます。例えば、「緊急の連絡は社内チャットで行う」「パスワードの変更指示は社内システムを通じて行う」といった具合です。

これと比較することで、社員は「メールで急にパスワードを求められたのは、いつもの手順と違う」と気づくことができます。正規のルート(公式な手順)と、今回のようなイレギュラーな連絡の違いを明確に示しておくことが、社員の判断を助けることになります。

実践的な注意喚起メッセージの作り方

取り組む順番:焦りを鎮める落ち着いたトーンを選ぶ、具体的な「やってはいけないこと」を列挙する、比較表や例を用いて視覚的に伝える
図3:実践的な注意喚起メッセージの作り方

焦りを鎮める落ち着いたトーンを選ぶ

注意喚起の文書を作成する際は、過度に不安を煽らないことが大切です。「大変危険です」「すぐに確認してください」といった強い言葉を使いすぎると、社員がパニックになり、かえって冷静な判断ができなくなります。

「現在、他社での事案に乗じた偽メールが確認されています。以下の点に注意し、落ち着いて対応してください」といった、事実に基づいた冷静なトーンを心がけましょう。事実(何が起きているか)と、対策(どうすべきか)を分けて記載することで、情報の伝わりやすさが変わります。

具体的な「やってはいけないこと」を列挙する

「注意してください」という抽象的な言葉ではなく、具体的な禁止事項を箇条書きで示します。例えば、「メール内のURLをクリックしない」「添付ファイルを開かない」「返信で個人情報を送らない」といった、動作に直結する指示です。

また、もし誤ってクリックしてしまった場合の「事後対応」もセットで記載しておくと親切です。「もしリンクを押してしまったら、すぐにIT担当者に連絡してください」といった指示を含めることで、被害の拡大防止に努めることができます。

比較表や例を用いて視覚的に伝える

文字だけの文章は読み飛ばされがちです。例えば、「本物の連絡」と「偽物の連絡」の違いを簡単な表にまとめると、理解が深まります。

項目 本物の連絡(例) 偽物の連絡(例)
送信元 社内システム・指定アドレス 見慣れない外部アドレス
内容 手順の案内のみ パスワードの即時入力要求
誘導先 社内ポータル 外部の怪しいURL

このように、具体的な違いを視覚的に示すことで、社員が日常業務の中で「あ、これは表の右側と同じだ」と気づけるようになります。

対策の判断と専門家への相談タイミング

確認する3つの視点:自社の周知ルールが機能しているか確認する、外部の専門家に相談すべき状況を見極める、次のステップに向けた体制の整備
図4:対策の判断と専門家への相談タイミング

自社の周知ルールが機能しているか確認する

注意喚起を行った後は、それが実際に社員に届き、理解されているかを確認するプロセスが必要です。例えば、周知後に「こういうメールが来たけれど、どうすればいいですか?」という質問が窓口に届くかどうかは、一つの指標になります。

もし質問が全く来ない場合は、「怖くて聞けない」のか「周知が届いていない」のかを判断する必要があります。定期的に、あるいは大きなニュースがあったタイミングで、社内の連絡ルールが守られているかを軽く確認する習慣を持ちましょう。

外部の専門家に相談すべき状況を見極める

自社だけで対応が難しい場合、いつ専門家に頼るべきかを判断基準として持っておきます。例えば、「社員が実際に偽サイトに情報を入力してしまった」「ウイルス感染の疑いがある通信を検知した」といった場合は、迷わず専門家へ相談してください。

中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン(IPA)でも、インシデント(予期せぬ事態)が発生した際の対応手順が示されています。自社でどこまで対応し、どこからを外部の専門機関や警察、個人情報保護委員会へ報告すべきか、あらかじめ整理しておくことが重要です。

次のステップに向けた体制の整備

今回の注意喚起を単発のイベントで終わらせず、継続的な体制づくりにつなげます。今回の経験を元に、社内の「情報セキュリティ基本方針」や「インシデント対応の手引き」を見直すことが、次なるリスクへの備えとなります。

まずは、現在の自社の連絡ルールが「社員にとって分かりやすいものになっているか」を振り返ってみてください。もし、具体的な指示や窓口が定まっていないと感じる場合は、専門家のアドバイスを受けながら、社内向けのガイドラインを整備することから始めてみましょう。

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